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◆名水に美味有り◆
ゆたか-Premiam 2004年秋号
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[ブランク画像] 福島県山都町宮古地区には農家が34軒あり、そのうち13軒が昔ながらの民家の座敷を開放して自分の畑で栽培したそばを食べさせてくれる「そばの村」だ。専業ではない。たいていの家では、何日か前までに予約を受け付け、お客のあるときにみにそばを打つ。予約なしの来店や畑や山仕事のときには、「ごめんなさい」ということになる。
そばはつなぎを使わないそば粉だけの手打ちが基本だ。村がこぞってそばの提供を始めたのは、18年ほど前から。当初は同一メニュー同一料金の提供fだったが、山菜やキノコの天ぷらをつける家、こづゆというこの地方の具だくさんのご馳走汁をつける家、大根を油炒めした汁、高遠汁でそばを食べさせる家。それぞれの家によって献立に特色が出てきた。
「水そば」は13軒のうち「いしいのそば」「なかじま」「とのや」の3軒だけで出されている。打ち立て、茹でたてのそばのぬめりを冷水で洗い、汁の代わりに清水をかけ「まず一杯目はこれで召し上がれ」というものだ。「昔から何もない土地で、そばしかできなかった。雪に閉ざされる冬にはそれぞれの家に集まって、囲炉裏端でどぶろくを飲みながら、いろいろな話をする。そのときには必ずそばが御馳走(ごっつお)される。どぶろくで火照った体には、特にこの冷たい水そばがうまい」と語るのは、「いしいのそば」の石井民衛さん。築120年の民家の囲炉裏のある座敷は田舎の親戚を訪れたような気分にさせてくれる。「水そばは、そばの出来の良し悪しがよくわかり、そばの味にうるさい人ほど、この水そばを食べたもんだ」
冷水にさらされた麺は、固く引き締まっている。ここに蓬莱山から引いた湧き水をたっぷりかける。冷水とともにそばの香りをすすり込む感じである。通常の一人前の麺の量はあるが、これはいわばスターター。いしいのコースでは、そば4杯がセットになっている。さて2杯目からは汁にどっぷり浸けて、と思う矢先に石井さんから待ったがかかった。
「昔は醤油の汁は高級品で、白菜や大根の漬け物からしみ出る汁をつけて食べた。今では漬け物の汁というわけにはいかないので、水そばの次は塩で試してごらん」。少量の塩をふって食べると、なるほど、さらにそばの甘みが引き立つ
そばの実の6〜7割を使い、いわゆる「田舎そば」のように黒っぽくはない。「小麦粉、トロロなどのつなぎを一切使わずに、10割のそばを打つというと、特にプロの方はびっくりします。しかし、ここではどの家も10割のそばを打ってるよ」。子供の頃、おばあさんからそば打ちを教わったという石井さんは今年81歳。いまでも子供は早くからそば打ちを習う。
この地区では、麺棒で広げる前の塊を比較的小さくまとめるが、それも子供や女性が作りやすくするための流儀であるという。また、道具類も子供の手に合わせた小さなものもある。そば打ちを伝えていく環境を整えているのだ。
そば粉には熱湯を冷水を半量づつ加えて練る。ここがポイントのようだ。打ったらすぐに茹でる。すぐに冷水にさらす。これで腰のある固めの麺となる。麺を切る手さばきも見事なものだが、奥さんのマサ子さんの方が「そばを切る腕前は、上」とのことだ。
埼玉県越谷市に息子さんが支店を出しており、そこでも宮古のそばを食べることはできる。しかし、かなうなら本場に行ってみたい。ちょっと予約は面倒だが、宮古地区のそばにはそれだけの価値はある。「13軒もあるのだから、どこかは予約を受けてくれるもんだよ」と、石井さんは実に大らかだ。
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